第2章 3.(5)種苗法

2022年10月20日  2022年10月20日

第2章 わが国の最近の立法における立ち位置

 

3.最近の我が国における立法の現状

 

(5)種苗法

現在、「種苗法」というものがあります。「知ってる人は知ってる」「知らない人は知らない」特殊な法律です。

 

立法経緯

戦前より、欧米を中心に、植物の新品種を保護しようという試みがなされてきました。

アメリカでは特許制度により取り込んで一元的に開発者の権利を保全しようとしていましたが、ヨーロッパでは、偶然的な新品種の発見があり得る植物は、その特性からして特許制度には馴染まないという考えから、他の特別な制度を設ける動きが広がりました。

 

そうした流れの結果、戦後になって、植物の新品種を〝育成者権〟という知的財産権の対象として保護することによって、植物新品種の開発を促進し、これを通じて公益に資することを目的として、植物の新品種の保護に関する条約(UPOV条約)というものが締結されました。

日本では現在、「種苗法」という法律がその目的を果たしておりますが、この法律は、我が国が昭和五七年に右条約に加盟するにあたり、従前の農産種苗法を改正・整備したものです。

 

この農産種苗法という法律は、戦後、GHQから劣悪化した野菜種苗の改善を求められたことを契機に、不良種苗の取締りと優良種苗の育成を目的として制定されたのが始まりです。

そこでは、優秀な新種苗を育成した者は、 種苗の名称登録を受けることで、その名称の使用を独占することができるという、名称登録制度が設けられました。

 

しかし、この名称登録制度は、諸外国と比較して、まだ種苗の保護の内容等が不十分だということがありました。

例えば、名称登録制度では、単に登録者が名称の使用を独占できるのみであったということや、保護期間が短かった点が不十分だったそうです。

 

右条約に加盟すれば、我が国でも種苗を保護するための制度が整備されていることが諸外国に向けてアピールできますから、加盟諸国からの種苗の輸入を促し、国際的な種苗の交流を図ることができます。

そこで、昭和五七年の右条約への加盟に先立って、保護の内容等が不十分な農産種苗法を改正・整備しようということになったのです。

 

立法趣旨

(ⅰ)右記のような経緯を経て出現した現行の種苗法ですが(平成一〇年法律第八三号)、種苗法における品種登録制度は、新品種を育成した者に対して、知的財産権の一つである育成者権を付与することによって、〝品種の育成の振興を図る〟ことを目的としているんだそうです。

出願された新品種の特性が既存品種と異なるなどの一定の条件が満たされていると認められれば品種登録され、開発者に対して、当該新品種を業として利用する権利を専有することを認める育成者権という権利が付与される(存続期間は原則として二五年間)ことになっています。

 

(ⅱ)新品種を開発するためには、知識と技術を身につけた専門家が、長期にわたって研究開発をする必要がある訳ですが、それには多くの時間と費用を投じなければなりません。

しかし、一旦新品種が開発されてしまえば、それが植物という生物である以上、開発者でなくとも種や苗を入手しさえすれば、新品種を増殖させることが可能となりますが、しかし、「そうなると開発者が新品種を利用して、投下した費用を回収し、利益を上げる機会を失うこととなる。

それは〝ケシカラン〟」というのが、種苗法の品種登録制度な訳です。

問題点

(ⅰ)種苗法における品種登録制度は、主に植物の新品種の開発を担う種苗会社を保護するものであり、それが悪く運用されれば植物の世代が変わるたびに利用料を払わねばならなくなる農家の負担は大きくなるものと思われます。

既に、アメリカでは、世界最大の種苗開発会社であるモンサント社が自己の〝育成者権〟を盾に取って農家に対して多数の訴訟を起こしており、日本でも同様の動きが起こることが懸念されます。

 

(ⅱ)農作物市場においては、形や大きさなどが規格どおりの農作物やブランド品種が求められる傾向にあるため、農家は、種苗会社が開発した種苗を利用せざるを得ない状況にあります。

しかし、このような種苗は、特定の農薬や化学肥料とセットで使用する必要があることが多く、農家は種苗企業から、種苗と併せて農薬や化学肥料も仕入れねばならないようです。

農薬や化学肥料は化石燃料を使用するものが多く、今後、種苗企業のシェアが拡大の一途をたどれば、気候への影響も大きなものとなるし、土壌汚染も看過できないものとなり得ます。

そして、種苗企業の開発した種苗による農業は、大規模機械化農業が適しているため、被用者の減少へとつながり、小農民を農業生産から追い出すことにもなりかねません。

 

(ⅲ)農業に素人である私としても、長い目で見て、育成権者と農家との適正な共存関係を模索・検討した法制が望まれます。

 

 

・・・つづく